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改行問題

改行するか,しないか,それが問題だ.

といってもいま書いている論文の話ではない.メールの話である.メールの本文は,改行すべきか,するべきでないか.これはかなり深遠な問題である.私が認識している現状は以下のとおりだ.

  • もともとは,メール本文は70文字(半角)程度で改行「すべき」であった.このことは,この種の業界標準を定めたRFCにもちゃんと書いてある.これを踏まえて,一昔前のメールクライアントは,規定の文字数で自動的に改行を入れてから送信するものが多いし,一定の年齢以上の人(すくなくとも私より上)は,メールの本文とは改行を入れるものだと思っている.
  • しかし,gmailなどの「横幅可変な」メール環境では,テキストに明示的に改行が入っていると変なところで表示が切れてしまい,かえって不便である.そこで,メールを書くときは,段落分けの改行以外の改行は入れる「べきでない」と思っている人もいまは多い.

そもそも昔はなぜ改行を入れていたのか.色々理由はあろうが,「昔はデータストリームが細く,『短い一行単位』でデータ通信を行っていたので,改行を入れずに超長い文章を送ると,どこかでこける恐れがあった」「昔は,そもそも端末が『80文字×??行』と固定サイズだったので,それを基準に物事を考えればよかった」というあたりが主な理由ではないだろうか.RFCはそれを根拠に定められたものであるし,少し前までは,改行をせずに長い文の入ったメールを送ると,上司(先生)から丁重な「指導」が入るのが常であった.

しかし,いま,PC上でも「メールクライアントの横幅」は人それぞれてんでばらばらだし,スマホの類いに至ってはせいぜい数十文字しかないのだから,どの環境でもそれなりに見えるには,「改行を入れず,クライアント側に表示を任せるのがよい」という考え方は,なるほど頷けるものである.この視点から,いまは私も,学生さんが送ってきたメールに対して特に「改行しなさい」とは言わないようにしている.実際,いま私が書いているこの文章だって,クライアントブラウザの表示に任せているのであって,(段落分け以外の)改行を明示的に入れたりしていない.

ただ...世の中,「だったら改行しない,でいいじゃない」と簡単に割り切れないのが難しいところだ.いまはまだ過渡期なのであって,「改行すべき派」と「改行すべきでない派」にはそれぞれ正当な理由がある.これは2つの意味においてである.

  • まず,メールクライアント自体が,実はまだ過渡期にある,ということ.例えば私が使っている某雷鳥メールクライアントは,「改行なし」のメールを受け取ったとき,
    • 平文であればクライアントのウィンドウ幅で折り返して快適に表示してくれるが,
    • 引用文のときはなぜか放置プレイで横スクロールバーを表示してしまう.

    よって,「改行なし」のメールを引用したメール...を受け取ったとき,私は毎回,一生懸命スクロールバーを使って原文を読んでいるのである.(かなりの苦痛!←なにかいいプラグインとかでどうにかなるなら誰か教えてください.)そういうクライアントを使う方が悪いのだと言われればそれまでだが,それを言ったらgmailなどのクライアントだって,「改行あり」のメールをintelligentに改行を削除して段落表示してくれるわけではないわけだから,どっちもどっちである.

  • つまり,どう書いたところで結局誰かにとっては不便なのである.だから,「メールは改行するものである」と教えられてきた年長組が「改行する派」から動かないのはやむを得ないし,反対に,生まれたときからgmailやスマホが標準であった若者組が「改行しない派」を合理的と考えるのも自然なことである.重要なのは,この2つが混在している,という事実を正しく認識することであろう.(「住みやすい社会」とは「『正しい』価値観で統一された社会」を言うのではなく,「色々な価値観があって,それでいてどうということもない社会」のことである!(この台詞は本質的に作家の橋本治による))

結局,改行に関するメールの「マナー」とは,いまの時代何なのであろうか.上述のとおり,すくなくとも現時点では確固たる答は出せないように私には思われる.強いて申せば,本来「マナー」とは固着した特定の流儀を指すのではなく,「相手が心地よい流儀であること」のはずだから,その原則に立ち返れば,改行する派の人には(その人の改行幅に合わせて)改行したメールを送り,しない派の人にはしないメールを送る,というのが最良なのであろう.

で,私自身の現在の流儀であるが,上に述べた適応的なやり方を実行している余裕もなく,結局私はいまだに「70文字程度で改行する派」から動けていない.これには,年取って新しい流儀に移るのが面倒だから,とか,私より年長の方々(=私がより敬意を示すべき方々)が同様だから,とか色々理由があるのだが,それを言っても詮無いことは上に申したとおりで,それで自分が正当化されるとは思っていない.

ここからが,この駄文で最も言いたかったことで,私のメールを受け取られる方の中には,「改行すべきでない派」の方ももちろんたくさんいて,こいつのメールはいつも変なところで改行があって読みにくいな,と思っておられるのでしょうが,まあそのとおりで返す言葉もないのですが,これは私なりに悩んで「選択」した結果なので,そこら辺の事情をご賢察の上,寛大にご笑覧いただければ幸いなのであります.(たまに,気まぐれに「改行しない派」の人のメールに,「改行しない派」で返すことはあります.)