数理工学 (mathematical engineering),応用数学 (applied mathematics). 工学の中に潜んでいる数理を見つけ出し,既存の数学を駆使して,あるいは必要なら新しい数学を作りだして,問題を解く方法を考えていく学問です. 数学はもちろんのこと,種々の工学,物理学・化学・生物学・経済学,計算科学などと広い交わりを持ちます. (数理工学/数理情報学専攻紹介ページも参照してください) 個人的には,より詳しく言うと,数値解析学,特に微分方程式の Geometric Integration を専門としています. (→業績一覧,も参照してください). いくつか最近のテーマを挙げます.→→ |
![]() 「離散変分法」とは,保存則(例:Hamilton 系におけるエネルギー=ハミルトニアン)や散逸則(例:熱伝導方程式におけるエネルギー散逸)を持つ微分方程式に対して,それらを離散系でも保つ数値計算公式(スキームと呼びます)を,自動的に作る手法です. 1996年頃,降旗・森により提案されたあと,主に降旗・松尾により発展を遂げてきました. 「なぜ保存則(散逸則)が大切なのか?」 それは次の図を見てください.これは非線形 Schrödinger 方程式(光ファイバー中の光伝播などを記述する方程式)のソリトン解(粒子のように安定して伝播する解)を,ふたつの異なるスキームで計算したものです.
今後は,「有限要素法への拡張」「線形スキームの安定化」などを詰めていく必要があります. (注) トップ中央の絵は,上右図をイラスト化したものです. ![]() 上の「離散変分法の拡張」とも関係します.このテーマでは主に常微分方程式を扱います. 常微分方程式の数値解法は,一般論の範囲ではほぼ成熟していますが,保存則・散逸則を持つ方程式の解法は,ごく低精度な場合しかまだ研究されていません.これを高精度なものに拡張しよう,というのがこのテーマの試みです. 2005年9月現在,一応形式的な形で,任意の次数の保存・散逸公式を作ることに成功しています.
左図は,7次〜11次スキームで,y'=-y (散逸系)を解いたときの誤差を計ったものです.横軸が離散化点数 N,縦軸が誤差です.両対数グラフなので,(1/N)p という量は直線になります.実際,p=7,9,11 の直線上に実測値が乗っているので,正しくそれだけの精度が出ていることが分かります.実は,この結果が出る以前には,6次にオーダーバリアーがあり,7次以上のスキームは不可能だと思っていました.
次のこの図は,同じ手法を Kepler 問題(惑星の運動,Hamilton 系なので保存系)に適用したものです.保存則を満たす7次スキーム(新たに作ったもの)と,満たさない7次スキームで,ハミルトニアン(エネルギー)の時間発展を見たものです.保存則を満たすスキームのエネルギーは,(少々見づらいですが)ずっと -0.5 まま一定になっています.一方,満たさないスキームのエネルギーは(さらに見づらいですが)-0.5 から出発し,-0.6 あたりまで,単調に値が低下(発散)していきます. 保存則を満たさないスキームの方は,さらによく見ると細かい振動が見えます.この振動のひとつひとつが,惑星の一公転に相当しており,近日点の近くで急激にエネルギーが変化している(つまり不安定である)ことを表しています.この問題の場合,それでもうまく計算できていますが,このような不安定性を除去するためにも,保存則を守ることが大切です. このテーマでは,今後「偏微分方程式への適用」「時間対称公式の構築」などを詰めていく必要があります. ![]() 学生の頃は Pseudospectral 法による非線形波動方程式の解法を研究していました. さらにそこに,SINC 関数による近似解法を組み合わせることを次にやりました.(→杉原正顯先生のご研究も参照してください) そのほか,自分の興味を広げたいので,全く新しいテーマを持ち込んでくる学生さんを歓迎します. 個人的には数理モデリング,並列計算なども面白そうだな,と思っていますがなかなか手が着かないでいます. |
1993 年 3 月 | 東京大学 工学部 物理工学科 卒業 |
1995 年 3 月 | 東京大学 大学院 工学系研究科 物理工学専攻 修士課程 修了 |
1995 年 4 月 | 同 博士課程進学 |
1997 年 3 月 | 同中退 |
1997 年 4 月 | 名古屋大学 大学院 工学研究科 計算理工学専攻 助手 |
2003 年 2 月 | 東京大学 博士 (工学) |
2004 年 4 月 | 東京大学 大学院 情報理工学系研究科 講師 |
2004 年 5 月 | 東京大学 大学院 情報学環 講師 |
2006 年 4 月 | 東京大学 大学院 情報理工学系研究科 講師 |
2007 年 8 月 | 東京大学 大学院 情報理工学系研究科 准教授 |
2013 年 6 月 | 東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授 |